一般財団法人泉佐野電力貝の池を活用した泉佐野市長滝第一水上太陽光発電所
需要家主導による太陽光発電導入レポート

西日本初の自治体PPSが挑むエネルギーの「地産地消」
―自治体がカーボンニュートラルを達成するために

令和4年度一般財団法人泉佐野電力
貝の池を活用した泉佐野市長滝第一水上太陽光発電所

本事業の概要

一般財団法人泉佐野電力今回お話を伺った一般財団法人泉佐野電力 事務局長 甲田裕武様。長年にわたり泉佐野市役所で電力部門に従事された後、2023年4月より現職

西日本の玄関口・関西国際空港を擁する大阪府泉佐野市は、古くから農業が盛んな地域であり水なすをはじめとする地場野菜は「泉州野菜」としてその知名度を誇る。一方で雨が少なく、世界かんがい施設遺産に登録された鎌倉時代の井川用水は現在でも使用されているほか、市内には多数のため池が存在する。

泉佐野電力は電力自由化を機に2015年に設立された自治体新電力(PPS; Power Producer and Supplier)である。先行事例である群馬県・中之条電力を参考にしながら一般財団法人の設立手続きを進めた。電力自由化以前の一般電気事業者への依存度を下げ、安価な料金で公共施設へ供給できることを期待したが、その後の電気料金の値上げや再エネ賦課金の上昇等、泉佐野市が負担する電気料金は上昇の一途をたどる。さらにウクライナ危機によってJEPX単価は上昇し、外部からの電気調達へのさらなる依存度の低減が急務となった。

泉佐野市は2021年9月に「泉佐野市気候非常事態」を宣言、2050 年の温室効果ガスの実質排出量ゼロ(ゼロカーボンシティ)を目指すことを表明した。調査により市の温室効果ガス排出量の70%超が電気由来であると判明した(下図)。裏を返すと、再生可能エネルギー比率を高めれば温室効果ガス削減への大きなインパクトが得られることを意味する。
JEPX依存からの脱却と2050年カーボンニュートラル達成という課題解決のためには、再生可能エネルギー調達を自治体自ら行うことが最適だと判断した。

一般財団法人泉佐野電力泉佐野市のエネルギー種別の温室効果ガス排出量の割合(出典:泉佐野市「第Ⅳ期 泉佐野市地球温暖化対策実行計画(事務事業編)」(2023年3月))

本事業の導入経緯

再生可能エネルギーによる発電比率の向上は必須であったが、太陽光発電に適した土地の不足に悩まされていた。泉佐野市は2008年度決算で財政破綻が懸念される「早期健全化団体」となった経緯があり、負債返還のために市有地の売却、あるいはFIT発電用に民間企業に賃貸している苦しい事情があった。

そのような事情の中、土地を探す中で広い水面を有するため池に着目した。すでに兵庫県や香川県ではため池水面を利用した太陽光発電の実績があり、「ため池発電を導入して本当によかった」という香川県の水利組合担当者から聞いた生の声、そして本補助事業の情報を得たことに大きく後押しされ、泉佐野電力でも導入を決断するに至った。

ため池は泉佐野市が保有、土地改良区が管理している。自治体財産を有効活用する目的で、2006年に地方自治法が改正され行政財産の貸付条件が緩和された。ため池の機能を損なわなければ、貸付および使用許可を自治体から受けやすくなったのだ。また、「泉佐野市気候非常事態」が宣言されたことに加えて、SDGsやESG経営といったキーワードが一般に浸透し、以前に比べてため池発電に理解を得やすい時代となっていた。土地改良区にも利用目的を納得していただき無事に賃貸契約を結ぶことができた。発電事業者の選定は泉佐野市による公募によって、三井住友建設株式会社に決定した。

本事業がもたらすメリット

ため池は老朽化や人員不足のため管理が年々難しくなっていた。本事業では土地貸付料の全額を土地改良区に管理料として支出している。太陽光発電事業がため池賃料による収入を生み出し、草刈り等のため池管理の外注が可能になった。
また、監視カメラや温度、湿度、風速等の計測機器を設置することで、ため池のリアルタイムモニタリングが可能となった。気象災害時も遠隔地からため池の状況が把握でき、下流域の浸水予測等が立てられる。管理とモニタリングという2つの柱で、ため池のレジリエンス強化につながった。

本件が泉佐野市での初のため池発電であったこともあり、計画当初はため池の機能や水質に与える影響を不安視する声がため池管理者である土地改良区から多く寄せられていた。しかし、今回の成功例を知った他の土地改良区から次々とため池発電の相談が舞い込んだ。成功事例をまずは1つ作り、不安要素の除去をすることが重要であることの好例だ。ただし、農業従事者にとって水源は非常に貴重であり、万が一を考えると踏み出せない心情を理解しながら歩み寄ることが大切である。

一般財団法人泉佐野電力 植田池、穂波池を活用した泉佐野市長滝第二水上太陽光発電所

本事業における補助金制度のアドバンテージ

補助金制度は電気料金の仕入れ価格低減に大きな効果がある。仕入れ価格にため池使用料、維持管理費等を上乗せする必要があるが、補助金がない場合のシミュレーションでは希望仕入れ値(上限11円/kWh)を超えており競争力のある価格ではなかった。今回の事業は自治体連携型であり補助率が最大2/3まで増額されるメリットは非常に大きく、希望仕入れ値を下回る価格での仕入れが実現した。

そのかわりに泉佐野市としても、発電事業者が円滑に業務を進められる素地を整えた。公募要領には、補助金不採択により事業化が難しくなった場合を想定して①泉佐野市は発電事業者へ責任を追及しないこと、②保証金を返還することを明文化し、公募へのハードルを下げた。 また、補助金が採択されたにもかかわらずステークホルダーの反対等により開発中止となれば、発電事業者は大きなペナルティを負う。ため池管理者および地域住民との合意形成には最も気を配り労力を惜しまなかった。

大変メリットのある補助事業ではあるが、公募のスケジュールが非常にタイトなために令和3年度補正予算の公募には準備が整わず、令和4年度予算の公募に間に合う形となった。本事業の活用が難しい一因ではないかと考えられる。

本事業ならびに再生可能エネルギーに対する今後の展開

泉佐野市はカーボンニュートラル達成に向け、泉佐野電力を通して再生可能エネルギーを調達し、利用を推進してゆく。 泉佐野電力としてまずは太陽光の割合を約33%まで増やし、残りは価格とリスクの観点から構成比率を適正化する方針だ。

市内に60カ所以上残っているため池を活用し、価格以外のインセンティブをつけて民間需要も掘り起こし太陽光の割合を50%まで増やしたい。昼間の余剰電力を蓄電し、需要が多く調達費の高い夕方に回せる蓄電池の活用は今後考えられるが、蓄電池の価格次第だ。蓄電池活用に特化した補助事業の創設を望む。

自治体PPSの置かれた状況は決して安泰ではないことにも言及したい。託送料金の発電側課金制度や容量市場*など、新電力を巡るルールが頻繁に変更され対応を求められる。少人数で運営している新電力にはなかなかに厳しい。

*発電事業者が保有する容量に対して、小売事業者が市場メカニズムで決まった価格を容量に応じて支払う制度

一般財団法人泉佐野電力事務を一手に引き受ける、事務局の南峰子様。常勤スタッフは甲田氏と南氏の2名と非常勤スタッフ4名の少数精鋭で運営している

「泉佐野電力さんとタッグを組みたい」と他の自治体より相談を受けることがあるが、あくまでも泉佐野市の外郭団体であるため難しい。むしろ、各自治体が自治体PPSを設立し、地産地消の電気を供給できる環境を整備することが2050年カーボンニュートラル達成のためにはるかに望ましく、あるべき姿だと考える。泉佐野電力の事例が導入の参考になればうれしく思う。

一般財団法人泉佐野電力の実施体制スキーム図図:一般財団法人泉佐野電力の実施体制スキーム図

本事業に関する問い合わせ先

泉佐野市生活産業部環境衛生課
  • 担当:072-463-1212(代表)
  • email:kankyou@city.izumisano.lg.jp
一般財団法人泉佐野電力
  • 担当:072-462-3223
  • email:sakura@izumisano-pps.or.jp
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