三井住友建設株式会社JR日根野駅の近くにある貝の池・植田池・穂波池に浮かぶ太陽光パネル
需要家主導による太陽光発電導入レポート

データに基づく水上開発を
―自治体と進める地域貢献型開発

令和4年度三井住友建設株式会社
JR日根野駅の近くにある貝の池・植田池・穂波池に浮かぶ太陽光パネル

本事業の概要

三井住友建設株式会社今回お話を伺った、三井住友建設株式会社 事業創生本部 副本部長 再生可能エネルギー推進部長 武冨幸郎様(左)、再生可能エネルギー推進部 部長 杉浦康志様(右)

橋や道路といったインフラからマンションや商業施設などのまちづくりまで、市民の生活を技術で支えてきた三井住友建設株式会社。社会とのつながりが強固な業界だからこそ、環境・エネルギー問題も重視している。2030年における理想的な姿として「Green Challenge 2030 」を策定し、2030年実質カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを推進中だ。施策の一環として、再生可能エネルギーによる発電・売電事業を通し、自社が排出するCO2相当量の削減を目指す。

発電所開発においては可能な限り自然を改変しない方法、特に水上太陽光と小水力に注力している。前者はため池、後者は既設の砂防ダム等を活用している。2014年に佐賀県の自社工場内にある三田川太陽光発電所を足がかりに 、現在は7か所の太陽光発電所を稼働中だ。そのうちの一つが本事業による長滝第1・第2水上太陽光発電所(大阪府泉佐野市、2.8MW-DC)であり、当社初のオフサイトPPAだ。

本事業の導入経緯

三井住友建設株式会社「総合評価方式はゼネコン業界では標準の手法であるため、短期間で対応可能でした」と語る武冨氏

令和4年5月に公表された泉佐野市の公募情報を入手し、すみやかに手を上げた。締め切りまで約1か月という短期間で必要書類をそろえなくてはならないが、当社は総合建設業の強みを活かし対応した。すなわち記載事項や総合評価方式(単価のみならず、あらゆる課題に対して提示したソリューションによって評価される方式)に精通していたことが功を奏した。内容も非常に高評価をいただけ嬉しく思う。

ため池は全国に少なくとも15万か所以上あるとも言われる。特に少雨傾向の瀬戸内海エリアには多く、今後再生可能エネルギー事業を支える大きなポテンシャルを秘めた存在だ。
ため池で開発を進めるにあたり、開発の合意形成とため池の賃貸契約は大きな課題である。所有者が自治体の場合、長期にわたる契約は難しいケースが多い。長期賃貸契約を想定していないことに加え、発電設備が本来のため池としての機能(水量・水質等)を損なわないか強く懸念されていた。そこで国が策定した「水上設置型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン 」に則った設計・施工を遵守することで、自治体が安心してため池を貸し出せる風土を醸成することに努めた。

また、「農業用ため池における水上設置型太陽光発電設備の設置に関する手引き 」には農業用ため池へ発電設備を設置する際の留意点が記されており、自治体およびため池管理者と当社の相互で確認を行いながら同意形成を進めてゆくのに非常に役立った。それらに加えて住民からの意見にも一つ一つ真摯に向き合い、プラスアルファの案を提示した。例えば、池に隣接する大型マンションへの反射シミュレーションの実施や、取水口への集塵シート設置などが挙げられる。

本事業がもたらすメリット

三井住友建設株式会社「パネル設置がため池のレジリエンス強化につながる可能性がある」と語る杉浦氏

これまで、ため池での開発・発電は各社の経験則で進められてきた傾向にあるが、当社ではエビデンスに基づいた開発を進めている。先にも述べたが、土地改良区などのため池管理者は、開発がため池本来の機能、ひいては地域の農業に悪影響(水路詰まり、水質悪化等)を及ぼすことを最も懸念されている。逆の視点から見ると、客観的データを示し、悪影響を及ぼさないことが示されれば水上太陽光の導入を決意できる。

具体的には水温、気候、発電量などのデータの収集・解析を行っている。パネルが水面への直射日光を遮蔽することで水温の上昇が1~2.5℃抑制されており、水の蒸発や草類の発生も抑えられている可能性が示された。また水温の変動幅が小さくなり、冬季の水温低下や凍結も回避できると推測される。

三井住友建設株式会社 猛暑時の水温低下。パネルを設置した池では水温変動が緩やかである

林地開発や造成が必要な陸地より、フロートユニットを現場加工不要で、組み立てるだけで済む水上開発の方がはるかに短工期だ。フロート架台やパネルに関しては自社開発製品にこだわらず、ため池の形状や目的に合わせて柔軟に選択している。総合的に見ても、水上設置はコストおよび環境面で優れているといえる。

本事業における補助金制度のアドバンテージ

当社は地域共生型の開発を目指しており、太陽光発電設備が地域貢献につながることを心がけている。今回、本事業による補助金のおかげで工費を抑えることができ、生まれた利益を地域に還元することを選択した。

三井住友建設株式会社水位計と遠隔カメラによる、ため池の遠隔監視システムの一例

近年は気象災害に対する自治体のレジリエンス強化が求められていることから、ため池の様子をスマートフォン等で確認できる監視カメラを設置した(プライバシー配慮済み、メンテナンスも当社で請負)。台風による影響などもモニタリング可能となる。また、停電時にスマートフォン等が充電できるよう、蓄電池(10kWh)と非常用コンセントも設置した。

三井住友建設株式会社「利益を地域に還元することで、ステークホルダーすべてにメリットのある開発が実現できた」と語る武冨氏

今回、理想的な開発が実現したのは、「発電設備―小売電気事業者―需要家」全てが泉佐野市およびその近隣だったからである。自治体所有のため池では、自治体を越えた送電許可を得ることが難しい。ため池の多い地方と電力需要の多い都市部というアンバランスが存在し、ため池活用のネックになっていると思われる。近隣自治体が連携して再生可能エネルギーの開発および利用が推進される仕組みづくりを期待している。

本事業ならびに再生可能エネルギーに対する今後の展開

当社が目指す2030年実質カーボンニュートラルの達成のために、今後も水上太陽光発電技術を展開し再生可能エネルギー発電を拡充していく。

まず泉佐野市では、今回のプロジェクトに引き続きため池補助金を活用し新たな水上太陽光発電所(1.9MW)を建設中である。その他、ストレージパリティ補助金を活用したオンサイトPPAなど、計2サイトでの水上太陽光開発を進めている。

開発と同時に実証実験も実施中だ。水の無い状況から満水へと水位の変動が激しいため池においても、故障なく稼働し続けられるフロート係留のシステムの開発を行っている。また、寒冷地や豪雪地では凍結や積雪での適用に向けた技術開発も行っている。従来では発電が難しかったエリアにも水上太陽光発電所を展開できる可能性が広がるだろう。

さらに洋上への展開も計画中だ。淡水域とは大きく異なる風・波浪・水流の影響を把握するために、東京都による「Gプロジェクト」に参画し、東京湾の中央防波堤エリアで国内初の洋上浮体式太陽光発電の技術実証を進めている。

これまで培った経験値と実験で得た新規データによる「エビデンスある水上開発」で、2030年実質カーボンニュートラル達成、地域貢献、環境保護の理想的なトライアングル成立を目指す。

三井住友建設株式会社の実施体制スキーム図図:三井住友建設株式会社の実施体制スキーム図

本事業に関する問い合わせ先

三井住友建設株式会社
  • email:pv-float@smcon.co.jp
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